高知県立牧野植物園研究報告 創刊号 06

 
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2014年ミャンマー連邦共和国シャン州調査活動報告

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やまとぐさ 第 1 号:83 ︲ 91. 植物研究課  藤川 和美,瀬尾 明弘,馬場由実子  高知県立牧野植物園は,ミャンマー連邦共和国 (以下, ミャンマー) において植物多様性調査を 2000 年より開 の草の根技術協力事 始し,国際協力機構 (以下 JICA) に則った同国環 業の受託により生物多様性条約 (CBD) 境保全林業省森林局との協働で資源植物の有効利用に関 する技術指導と人材育成に取り組み,資源植物の利活用 により地域住民の収入の途を開く活動を 2006 年より続 けている.本稿では,2014 年にミャンマーで実施した シャン州におけるインベントリー調査の概要および民族 学的調査の一環として実施している植物と人々の暮らし についての情報を報告する.なお,科名は APGIII に準 拠する. 1.調査報告 (1)第 1 回調査 :2014 年 5 月 12 日~ 6 月 7 日 :シャン州ナムチョ地域(図 1) (タイ・クイー :藤川和美,Dr. Santi Watthana 圃場担当) , Aung Din (ミャンマー国内調整員) , Thant Shin(森林局) :  マンダレー管区に近いシャン州チャウメ県ナムチョ地 域で保護林となっている3区域,ゴテック保護林 (Gok ( 以下 R.F.) (図 2) ,ニャウンダッ Teik Reserve Forest ク保護林 (Nyaung Dauk R.F.)およびカンギー保護林 (Kang Gyi R.F.)でインベントリー調査を実施し,総 数 375 点,約 2,100 枚の腊葉標本を作製した.コミカ ンソウ科コミカンソウ属 (Phyllanthus)の採集点数が ,アカ 多く,次いでマメ科タヌキマメ属 (Crotalaria) ネ科の植物 Pavetta 属など,またミソハギ科サルスベ リ属 (Lagerstroemia)の L. tomentosa と L. villosa やオ トギリソウ科オハグロノキ属 Cratoxylum formosum ssp. (図 3) . pruniferum, C. cochinchinensis などを収集した 当該地域の保護林のうちゴテック保護林とニャウンダッ ク保護林は石灰岩地であった.この地域で森林がある程 度残されている場所は, 石灰岩地 (土地利用が出来ない) 神 (ミャンマーの精霊・民間信仰) が およびナッ (Nat) 祭られている林 (日本でいう鎮守の森) のみである.そ の他,天然林が残されているところへ現場で調査可能か 聞いたところ,地雷が埋められているため,入域禁止で あるとのことであった.石灰岩地ではないカンギー保護 では約2時間程度の距離に滝があり 林 (Kang Gyi R.F.) 野生のゾウが生息しているとのことを聞きつけ,調査を 依頼したが,これも反政府ゲリラがいる地域であること から許可が得られなかった.その他,政府軍が管轄する 地域にも森林が残されている.シャン州は中国及びタイ 国境に接し,特に中国国境と接する北シャン州は経済が 発展している.マンダレー管区に近い石灰岩地を除く高 原地域では C.P. コーン栽培⁂1が盛んに進められ,見渡 す限りのトウモロコシ畑が拡がっていた. ⁂1 Deliver Htwe(林業試験所以下 ンシリキット植物園) , FRI, 組 織 培 養 研 究 室 長 ) , Win Win Nwe (FRI, ラン C.P. コーンとは,鶏飼育の飼料用のとうもろこしである.東 南アジアではミャンマーほかラオス,タイ北部など高原地域 の陸稲の栽培がやや困難な地域で多く栽培されている.栽培 が容易,また企業 (ミャンマーでは C.P. Yangon という会社 2014年ミャンマー連邦共和国シャン州調査活動報告 83

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Ann. Makino Bot. Gard. 大学院医薬保険学域・助教:現在東京薬科大学薬草園) , Deliver Htwe (FRI) ,Aung Zaw Moe (FRI,標本庫) , Aya Mya Mon (FRI,標本庫) ,Thin Su Tin (FRI,標 (ミャンマー国内調整員) 本庫) ,Aung Din 活動内容:  ヤンゴン市内において野外調査で必要な物資を購入後, 車で FRI のあるイエジンへ向かい,さらにピンロンへ と移動をした.シャン州南部地域のタウンチャ周辺の保 (図 4)およびピンダヤ周辺の保 護林 (Paunglang R.F.) においてインベントリー調査をおこ 護林 (Zawgyi R.F.) ない,総数 495 点,約 2,000 枚の腊葉標本を作製した.  タウンチャ周辺の保護林は落葉常緑混交林である.し (Dr. S. Watthana 氏撮影) . であるが,本拠地はタイ) が安定した価格で買い取り,種子 を安く販売していることから,村人達は C.P. コーン栽培を 導入したことで (約 20 年前) ,生活が安定したと述べている. (2)第 2 回調査 調査期間:2014 年8月 26 日~9月9日 (図1) 調査地域:シャン州,ピンロン,ピンダヤ (金沢大学 調査隊員:藤川和美,瀬尾明弘,三宅克典 84 やまとぐさ

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かしながら,林の周辺は畑など人間活動の攪乱を強く受 けている.今回の調査は雨季であった.この雨季の採集 調査では,マメ科ならびにショウガ科などの植物が開花 .その他にノボタン科 しており,多く採集された (図 5) の良いイエジンでも供給が間に合わず断念し,すべてを エタノール処理した.  ピンロン採集地 (Paunglang R. F.)は標高約 360 ~ 600mに位置している.丘陵地では焼き畑を中心とした 農業が盛んに行われているため森林開発が進み,森林の 面積は極めて少ない.残された森林は二次林が多く,落 葉樹に竹の浸食の入った林であった.木本類の花,果実 は余り確認されず, 採集物は, 草本, 蔓性の植物が多かっ た.ピンロン周辺で全 65 科 139 属採集し,その中で標 Sonerila 属の一種などを採集した.後述するように調査 期間中に現地の人々の多様な植物利用を観察することが できた.ピンロンではタケノコ採集の季節であり,多量 のタケノコが桶につけられていた.  ピンダヤ周辺の高標高域 (標高, 約 1400 ~ 1600m 付 近) はマテバシイ属 Lithocarpus などブナ科が優占する 林であった.お茶の栽培が盛んな地域で,今回の昼食場 所を借りた横では煎ったお茶を出していただいた.  今回の調査期間中に何度か食べる機会のあったネギ属 植物は,ネニラ Allium hookeri であった.カローの市 場でも複数の店舗で販売され, ピンロンでは広く栽培され ていた. 21 属) , イネ科 (40 本数が多かったのは, マメ科 (52 点, 点, 23 属) キツネノマゴ科 (12 点, 6属) , ヒルガオ科 (13 点, 3属)が挙げられる.ピンロン周辺では,川沿いに 4属) 採集した日があったためか,ツユクサ科 (11 点, の採集が多数あった.  ピンダヤ採集地は標高約 1100 ~ 1600mに位置して いる.そのうちの広大な地域は農業開発されており,残 されたまとまった森林は,コミュニティーフォレストと 呼ばれる,村の住民が持続利用するために保護されてい る森や,丘陵地でも傾斜のきつい山,寺,又は政府の 保護林に限られている.構成種は落葉樹が圧倒的多数 であるが,マツや常緑のカシ林も場所によっては見ら れ,種の多様性がピンロンよりも高かった.ゾウジー保 護林(Zawgyi R. F.) においては, わずか標高 100 mの区間 で多様なブナ科の種が確認された. コナラ属 2 種 (Quercus , スダジイ属 3 種(Castanopsis fleuryi, helferiana, Q. sp.) , マテバシイ属 3 C. armata/diversifolia, C. crassifolia) 種 (Lithocarpus sp., L. fenestratus, L. lindleyanus) が確 .ピンダヤ周辺では,全 81 科 221 属 認された(図 6) を採集した.その中で標本数が多かったのは,マメ科 (3)第 3 回調査 調査期間:2014 年 11 月 25 日~ 12 月 19 日:乾期の初め (図1) 調査地域:シャン州,ピンロン,ピンダヤ ,イネ科 (44 点,28 属) ,キク科(32 点, (54 点,20 属) Dr. Santi Watthana 調査隊員:藤 川 和 美,馬 場 由 実 子, (タ イ ・ ク イーンシ リ キ ッ ト植物園以下 QSBG) ,Dr. Prachaya (QSBG) ,Dr. Monthon Norsaengsri(QSBG) , Srisanga Dr. Woranuch La-Ongsri (QSBG) ,Deliver Htwe (FRI) , Win Win Nwe (FRI) ,Htike San Soe(FRI) 活動内容:  2014 年第 2 回目調査と同じ地域のシャン州ピンロン, ピンダヤ地区で調査を実施し,総数 749 点,約 3,600 枚の腊葉標本を作製した.採集した標本を乾燥すること を試みたが,電気機器を使っての乾燥作業は,電力事情 2014年ミャンマー連邦共和国シャン州調査活動報告 85

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Ann. Makino Bot. Gard. 17 属) ,キツネノマゴ科 (21 点, 7 属) ,アカネ科 (13 点, 6 属) ,ヒルガオ科 (10 点, 4 属)が挙げられる.  2014 年度に実施したすべての野外調査は,環境保全 林業省森林局職員と協働でおこなわれた.インベント リーに伴い,科の同定指導と,腊葉標本の作成方法を指 ,若手の職員にはフィールドワークの意義か 導(図 7) ら初め,フィールドノートの付け方,樹高のはかり方, 分類の基本,地域を代表する 5 つの科の同定方法,腊 葉標本の作成方法を指導した.なお,これら調査で採集 された標本は,第 1 セットをミャンマー環境保全林業 (RAF) へ,重複標本は同定の 省林業試験所 FRI 標本室 ためミャンマー政府へ輸出許可証を申請し,許可が得ら れ次第ミャンマーから牧野植物園標本室 (MBK)へ輸 出した.到着後に採集情報をデータベースに入力しラベ ルを作成,標本台紙に貼付後同定を進めている. いて紙を作成している.ブーゲンビリアの苞葉などを模 9) .紙作りの工程を動 様として漉き込んでいた(図 8, 画でも記録した.図 8 は動画からの切り出しである. (2)砂糖ヤシ工場(中央部乾燥地帯周辺)  古都バガン周辺の乾燥地域では,整然と並んだオウギ ヤシ(パルミラヤシとも呼ばれる)Borassus flabellifer を見ることができる.乾燥に強い本種は,ミャンマー中 央部の乾燥地帯では重要な換金作物になっており,花序 に傷をつけてでる花序液からは砂糖をつくり,若い果実 の胚乳は半透明なゼリー状でそのまま食べておやつにし たり,果実の果皮の部分は家畜の飼料にしたり,ひしゃ くを作ったりする. 円柱形をした幹状の茎は, イスやテー ブル,柱などに,葉は屋根の葺き材として用いられる. また芽だし(鱗片葉が肥厚した部分,Dassanayake & も焼いて食すと甘みのあるほく Sivakadachchan, 1973) ほくしたおやつになるなど,総ての部位に利用価値のあ る植物である.  バガンからポッパ山(花の山として知られ,精霊信仰 ナッ神を祭る総本山がある)へ続く街道沿いには,外国 人観光客を相手にする砂糖ヤシ工場が至るところにあり, 高さ約 15 ~ 30mにもなるオウギヤシに登りその花序か ら液を採取する方法や,液から砂糖をつくる工程を見せ てくれる.  採取するヤシ登りをする男性は腰に花序に傷をつける ナイフと液を溜める素焼きの壺をつけ,花序のついてい る先端まであっという間に 10m 以上を登り,まずは花 序液を採取するためナイフで花序に傷をつけ,液を溜め .既にセットしてあった壺に る壺をセットする(図 10) 液が溜まっていればこれを回収する.あっという間に登 り,あっという間に降りて来て,壺にたまった新鮮な花 序液を見学者たちに振る舞う.オウギヤシの花序液は さっぱりとした甘みがあり,くせもない.砂糖づくりは .かまどに この花序液を煮詰めるとできあがる(図 11) 設置された鍋で煮詰め,へらでかき混ぜる.煮詰まった らかまどから鍋をおろし,まだ温かいうちに 3cm くら いのサイズの団子状に手でまるめ,これが冷えて乾燥す るとヤシ砂糖となる.素焼きに溜まった花序液はすべて 2.植物と人々の暮らし情報 (1)シャン州の伝統的な紙づくり  ピンダヤ滞在場所の近くにシャンペーパーを作ってい る工房があるというので,視察した.カジノキと灰を用 砂糖になるとは限らず,午前中にとった花序液をそのま まにしておけば発酵してアルコール度の低いお酒ができ あがる.これをミャンマーではスカイビアと呼ぶ.一方 花序液を発酵させた後に蒸留するとアルコール度の高い 86 やまとぐさ

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左上から下へ,さらに右側へ続く ( a からアルファベット順に h まで) .つぶしたカジノキおよび灰の混合液を木の桶内で撹拌し, 木枠内に流し込む.ゴミを採りながら,混合液を手で叩き付けるように沈めていく.ブーゲンビリアの苞葉などで模様を作成する. 木の枠は置いてあるだけで,最後に水を切るために持ち上げる.乾燥後,木枠からはがす. 2014年ミャンマー連邦共和国シャン州調査活動報告 87

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Ann. Makino Bot. Gard. シャンペーパーの制作風景.上左) カジノキを木槌でくだいている.上右) 乾燥中.下左) シャンペーパーを用いた傘.下右) シャ ンペーパーを使った小さな傘をもつ. ヤシ酒が完成する.蒸留の仕方はかまどに発酵させた花 序液を置き,その上に水を入れた鍋を置く.かまどで温 められたアルコールの蒸気が水をいれた鍋の底で冷やさ れて下に落ちてくる,この液を集めて無色透明な蒸留酒 . できあがる(図 12) 88 やまとぐさ

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(3)マンダレー市場視察  12 月初旬にマンダレーのゼイジョーマーケットを視 .私たち日本人が普段から慣れ親しむい 察した(図 13) わゆるナス,カリフラワー,オクラなどの野菜類の他に, シカクマメ (Psophocarpus tetragonolobus) のイモやネ ニラ (Allium hookeri)の根,ガマやバナナの茎,マメ 科のビルマネム (Albizia lebbeck)の新芽,オウギヤシ (Borassus flabellifer) の芽だし,ミズオオバコ (Ottelia の花序, ノウゼンカズラ科のソリザヤノキ (Oroxylum sp.)  市場での購入品をマンダレー市内の,あるレストラン で早速調理してもらった.ガマの茎,ミズオオバコ,ビ ルマネムの新芽はチキンベースのスープの具材として登 場.ガマの茎はくせが無く,食感がありおいしい.ビル マネムは少しえぐみがある.ミズオオバコはぬるりとし た食感がある.食材としては面白いが,ガマ以外はもう 一度食べたいという感想を持てなかった.オウギヤシの 芽だしはバーベキューとして提供された.外回りのやや 堅い肥大した鞘状子葉と子葉をはがし,中の柔らかいス ターチ質の鱗片葉(最初の本葉を包み保護している)を 食する.ホクホクとしていて栗のようだが,それのよう な強い甘みはない. 最後に, ソリザヤノキもバーベキュー として登場.外・中果皮はものすごく苦いが,種子とそ の若い翼はそれほど苦くない.尚,バーベキューのほか には,一晩水にさらしてスライスしたものをサラダにす るという.苦いもの好きなミャンマー人ならではの食材 といえる.  野菜に関していえば驚くほど多様なものを食するが, デザートとしての果実の種類は東南アジアで見かけるも のが一通り見られものの,意表を突く種は見つからな かった.マンゴーの品種が多くあり,12 月初旬では調 理用の若い果実が店頭に並んでいた. (4)シャン州カロー市場で販売される野生ラン  南シャン州のカローは標高 1320m で,イギリス統治 .当該 時代に避暑地として発展した地域である(図 1) 地域周辺ではナンテインと呼ばれる五日市場(5 日おき におこなわれる市場)が開催され,そこには多種多様な , 物品が並ぶ.また,発酵食品の納豆にはじまり(図 15) indicum)の若い果実を見かけた.このうち,ガマ,ビ ルマネム,ソリザヤノキ,ミズオオバコ,オウギヤシの 芽だし(図 14)を試食目的に購入した. 2014年ミャンマー連邦共和国シャン州調査活動報告 89

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Ann. Makino Bot. Gard. チャットで販売されていた(100 チャット≒ 10 円) .ど のように採取するか販売者に尋ねたところ,カロー近く の森林に入り株ごと根こそぎ採取するという.違法行為 であるが取り締まりがなされておらず,ランの購入者が いる以上,山採り→販売のルートは絶えない.従って, これらのラン科植物の増殖を進め保護・保全することと, 増殖した個体に基づく市場に山採り以上の安い価格での ラン植物の販売経路を早急に構築しなければ,野生絶滅 の危機からは免れないと考えられる. 野生動植物の保護 ・ 保全はミャンマー環境保全・林業省の使命の一つである ことから,これらの実態を把握するとともに,ランの増 茶葉の漬け物などは照葉樹林文化圏であることを感じる ことができる.ダイコンや里芋などの根菜類, 白菜, キャ ベツ,アブラナ等の葉野菜,オクラやブロッコリー等の 花野菜,オレンジやリンゴなど日本のスーパーマーケッ ト以上の品揃え,花卉類の取扱も豊富である.  このカローでは,主にラン科植物の販売がなされてい るか,山取がなされているかなどを含め市場調査を実施 した.カローでは,山採りのセッコク属(Dendrobium) (花なし) ~ 3,000 チャット (花つき) が 1,000 チャット ,またバンダ類は花つきで 3,000 で販売され(図 16) (5)シャン州における社会経済的な現状把握調査(ベー スライン調査)  第 1 回調査ではナムチョ地区 5 村,第 2 回目調査で はピンロン地区 4 村,ピンダヤ地区 2 村,合計 11 村で 社会経済的な現状把握のための調査 (ベースライン調査) をおこなった.各村では村長および村の世話役に,村の 戸数,人口,村の形成過程,主な収入源,水,電力事情, 民族構成,学校の有無とその状況,病院の有無等の聞き 取り調査を実施した.続いて質問票を用い各村 20 ~ 30 名に,年間の収入や収入源,農業形態や林産資源への依 存度,薬用植物の利用などについてアンケートを実施し . た(図 17)  シャン州は中国およびタイ国境に接し,特に中国国境 と接する北シャン州は経済が発展している.マンダレー 管区に近い石灰岩地を除く高原地域では前述のとおり 殖を協働で進め,保全活動ができる人材を育成していく 必要があると考えられる. C.P. コーン栽培が盛んに進められ,村人に十分な収益が もたらされていたことから,村人達の林産資源への依存 度は低かった. 90 やまとぐさ

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 南シャン州ピンロン地区は,たいていの村はタウン ジー~ネピド道路が建設されてから移住した住人により 出来た村であった.従って,シャン州ではあるがシャン 族が居住する地域ではなく,カヤン族,カレン族,また ビルマ族などによって構成されていた.いずれの村も焼 畑により新規土地を開拓し,ターメリック,バナナを植 え付け,収入源としていた.また,パウンラン保護林 (Paunglang R.F.) を焼畑によって切り開いて土地利用し ており,村人には土地の所有権はない.この土地利用に ついては, 「誰の土地でもなく,制限を受けているもの でもない」や, 「土地が自分のものではないから,永久 に使えるか不安」といった村人からの回答があり,オー ナーシップの問題を抱えていた.この地域ではターメ リック,バナナ栽培での現金収入に加え,タケノコとコ ンニャクイモの野生品の山採りによって収入を得ており, その販売ルートも確立していた.  ピンダヤ周辺は,シャン族が住む地区であり,村人は 自分の土地をもっている.チャノキの栽培が主な収入源 村でラン栽培を であった.ピンセイピン (Pin Sein Pin) 実施している農家へ行き,聞き取り調査を実施した結果, 驚くことにこの村では以前から観賞用のランを自宅の ホームガーデンで株分けによって増殖し,わずかではあ るが小遣い稼ぎに販売していた.近年山採りしたもので はなくいずれも庭先で増やしたものであるとのこと.増 殖方法を質問するとバンダ属の Vanda coerulea の花の 咲かせ方やセッコク属 (Dendrobium)の株分けと茎の .薬用のセッ 年齢など科学的な回答が得られた(図 18) は 2006 年にバイヤーが買い付け コク属 (Dendrobium) に来たことから初めて茎を販売したという.この薬用ラ ンの茎の増やし方についても,2 年以上が経過し節の途 中から芽がでて弱った茎のみを薬用に販売するとのこと であった.資源の持続的利活用を村人自らが実施してい る事例である.なお,この農家のホームガーデンで栽培 されている植物の種類は,①両端切りの葉巻タバコの葉 , (ムラサキ科のカキバチシャノキ属 Cordia dichotoma) ②ライム, ③コーヒーノキ, ④アプリコット, ⑤アボカド, ⑥サトウキビ,⑦バナナ,⑧カンナ,⑨エンドウマメ, ⑩キャベツ,⑪カボチャ,⑫カイラン,⑬ネギ,⑭ター . メリック,⑮ショウガ,⑯ラン等であった(図 19)  このようにしてベースライン調査によって得られた情 報から,JICA 草の根技術協力受託事業「シャン州にお ける植物インベントリーと有用性の評価並びに資源植物 (薬用ランを含む)の利活用支援事業」におけるモデル ビレッジを,林産資源および焼畑農業に依存する傾向が 高いピンロン地区に設定した.2015 年 2 月には,ピン ロン地区およびカロー地区の合計 4 村で,環境教育セ ミナーを開催した. 3.2014 年シャン州調査を終えて  シャン州における調査は 2008 年に南シャン州を中心 に調査隊が派遣され,約 840 点の腊葉標本が採取され ている.本格的な調査は 2014 年より始まりその採集品 (重複標本を除く) となった. をあわせ,合計約 2,460 点 これら採集された標本の同定は継続して実施されており, シャン州フロラの解明が期待される.また,南シャン州 では民族学的調査として,当該地域で食用,薬用,家具 や道具等に用いられている野生植物の聞き取り調査が並 行して実施されており,薬用として用いられている植物 については化学分析用試料を採集している.これらにつ いては同定の後に,化学分析を開始する予定である. 引用文献 Dassanayake, M. D. and Sivakadachchan, B. 1973. Germination and seedling structure of Borassus flabellifer L. Cylon J. Sci. 10:157 – 166. 2014年ミャンマー連邦共和国シャン州調査活動報告 91

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