高知県立牧野植物園研究報告 創刊号 02

 
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牧野植物園リニューアルへの歩み その1 整備構想の策定まで

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やまとぐさ 第 1 号:13 ︲ 16. 牧野植物園リニューアルへの歩み その 1 整備構想の策定まで 教育普及課  鴻上 泰 はじめに (1999) 11 月に牧野植物園がリニューアル  平成 11 年 オープンして 16 年が経過した.牧野植物園の拡張構想 (1958) に牧野植物園が県立と に関しては,昭和 33 年 して五台山の当地に開園して以来再三要望されてきたこ とではあったが実現には至らなかった.昭和から平成に 元号が変わり,牧野植物園も開園 30 周年を迎え成熟期 を迎えた時点で,拡張を含めたその後の植物園の方向 性を定めるための検討委員会が設置され,整備計画が (1978) から平成 15 年 具体的に動きだした.昭和 53 年 にかけて牧野植物園に在籍していた筆者は,平 (2003) (1999) 11 月のリニューアルオープンまでの間 成 11 年 実務を担当したので,その間の経過を書きとどめる. 1.コンセプ ト と基本方針の策定 (平成元年度~平成 5 年度) (1)牧野植物園整備計画検討委員会 (平成元年度) は牧野植物園整備計画検討委員会  平成元年度 (1989) における現状の把握,植物園の方向性とそれに沿った整 備構想の策定が行なわれた. 年 8 月 1 日 第 1 回検討委員会  平成元 (1989)  平成元 (1989)年 10 月 24 日 ~26 日 つくば実験植 物園および仙台市野草園視察研修 (1990) 年 1 月 18 日 第 2 回検討委員会  平成 2 (1990) 3 月 整備計画検討委員会報告書  平成 2  創立 30 余年を経過した植物園の現状を把握し,当時 高知県が県勢浮揚の一環として推進していた国民休暇県 構想の中で植物園をどのように位置づけ,どのように整 備すべきかについて,当時の園長はじめ議員,学識経 験者,地元代表等 10 名 *1 による絶滅危惧植物の保護育成に支障をきたしているこ と,温室の老朽化,牧野文庫や化石館の有効活用,学習 館の展示の充実等が指摘された.その他,植物園への取 り付け道路の改修や駐車場の整備,教育普及事業の充実 やみどりの相談所の設置への要望も出された. そこで,植物園の定義,役割,機能および日本の植物 園の現状等の資料を作成し,研究型植物園としての国立 科学博物館つくば実験植物園と,教育普及型植物園とし て仙台市野草園への視察研修を参考に,今後の植物園の 整備構想を策定した.この中で改めて,牧野植物園が目 牧野博士の緯業の顕彰.2) 高 指すべき方向として,1) 知県の自生植物を収集した地域特性を生かした植栽を目 社会教育の場 指す (植栽植物の戸籍データの完備) . 3) として,子どもから大人まで自然に親しみ学べるフィー ルドをもった自然史博物館をめざす.同時に植物に関す る情報 (標本・文献・書籍・写真等) のデーターバンク 緑地,憩いの場として としての機能を充実させる.4) の役割を果たす.の 4 点が確認された. さらにそれらを実現させるための構想として,園地 園地の拡張 (用地買収) ,面積は最低で については,1) 植栽等については,落葉広葉樹林, も 12 ~ 15 万㎡.2) 野草群落 (群生) ,芝生広場,生活文化に関係の深い植 物区,沼沢・池,牧野博士にゆかりの植物区,竹林,郷 土の森・自然観察の森の造成を行なう.施設については, 1) 温室 (立体回遊式で変化に富んだ景観展示,採光・通 風のためのプリズム床・自動開閉ドームの採用,テーマ 牧野文庫 別・植物群別に部屋を分けるなど) の新設,2) の活用 (完全空調,マイクロフィルム化,図書館ネット 化石館の充実とその機能を植物と連携して ワーク) ,3) 自然史博物館の新設により,a) 自然その 活かすため 4) による「牧野植物園整備計画 検討委員会」を設置して検討を行なった.当時の現状は, 年間の入園者数は約 10 万人で, 園地は現南園の約 2.3ha, 昭和 46 年の 14 万人から漸減の状態であった.その中 で,春季秋季の観光シーズンにおける一日 2 ~ 3 千人 の入園者には収容能力を超えていることと,植栽につい ても面積的な限界があり,さらにナーサリーが無いこと b) 自然史資料の収集 ・ 保管, c) ものについての調査研究, 自然についての知識の普及と教育等を目的として,生き た植物を扱う植物園の中核的な役割を担うことによりさ らに高度な機能を発揮するものになる.との整備構想を 描きだした. 牧野植物園リニューアルへの歩み 13

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Ann. Makino Bot. Gard. *1 【平成元年度牧野植物園整備計画検討委員会委員】細木善一 郎 (県議会議員) ,山脇哲臣 (元牧野植物園長) ,山中三男 (高 知大学理学部教授) ,川添晃 (高知県教育センター第一研究 班長) ,海老塚和秀 (竹林寺住職) ,横田輝代 (高知市五台山 支所婦人部長) ,和氣太司 (高知県社会教育課長) ,田口順吉 (高知県公園下水道課長) ,依岡義浩 (高知県自然保護課長) , 野田定昭 (牧野植物園長) 物館,現在の南園温室のある位置に牧野植物美術館,長 江には圃場とカフェレストラン,温室は鳴谷に建てると いう斬新なものであった. (3)牧野植物園整備促進議員連盟 (平成 4 年度) (1992) は整備に関する機運を高める目的も 平成 4 年 あって,8 月に高知大丸において牧野富太郎博士生誕 (2)牧野植物園拡張整備基礎調査と整備計画構想の作 成 (平成 3 年度) (1991) は牧野植物園整備計画検討委員会の 平成 3 年 報告を具体化するために石井空間研究所 (代表 : 石井忠 彦) に牧野植物園拡張整備基礎調査および整備計画構想 (1992) 年 3 月に報告書が提出 の作成を委託し,平成 4 された.基礎調査は旧牧野植物園から東,鳴谷,倉谷, (植 長江地区の一部を含む約 25 ha について,自然環境 生,土壌・地質,水系・水脈,地形,野生生物,気象, 景観) ,社会環境,人文環境・法規制等について行なわ .構想 れた.それに基づいて構想図が描かれた (図 1 ) 図は基礎調査の対象地域から更に将来の拡張を見越した 約 70 ha について描かれており,入口は長江と竹林寺側 の 2 カ所,竹林寺側の現牧野記念館の位置に自然史博 130 周年記念展を開催し,9 月には牧野植物園整備促進 議員連盟が発足した.この議員連盟は議会史上まれな全 会一致によるもであった.この年は更に高知新聞に議員 連盟発足の記事とともに議員連盟会長中平和夫氏による 私の提案,社説,声欄への投稿,テレビでの放映等マス コミへの働きかけが活発に行なわれた.同年 12 月には 議員連盟から牧野植物園整備に関する提言が出され,同 時に当時の橋本大二郎知事あてに要望書 (牧野植物園整 備にあたっての取組について) が提出された.この件に 関して,筆者は平成 5 年 2 月 15 日に知事に直接,植物 園の意義と拡張の必要性をレクチャーした.議員連盟の 発足やマスコミへの働き掛けは,当時の里見剛園長の熱 意によるところが大であった. 14 やまとぐさ

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(4)牧野植物園整備検討委員会 (平成 5 年度) (1993) は牧野植物園整備検討委員会 (委員 平成 5 年 に,部長から (現時点では) 予算規模の見積もりはない が,確保はしていきたい,構想案としては実現性が高い, 年度年度に予算対応していくとの回答があり,さらに西 森氏から内部でのコンセンサスを十分に,議連としては 五台山全山を植物園に,短期・長期は短期・中期と考 え,継続して時間をかけて整備をすすめるべき,海老塚 氏から五台山公園,竹林寺との共存共栄,参道には歴史 的な道としての視点を,石井氏から植物園は公園と違い 専門家が必要,人的配置の充実がなければメニューの実 現は困難で,スタッフ配置のスケジュールを明確にすべ き,山脇氏からアワ・ヒエ・キビ・タロイモ等の遺伝子 保存も植物園の重要な仕事で,山間試験場や蚕業試験場 などのスタッフも補完する必要がある,広い面積にどの ような植栽をするのか,苗の育成は職員が行なう,藤原 氏は専門的分野と一般的な分野との区分を分かりやすく し中途半端な形にはしない,何を見せようとするのか目 的をはっきりと,展示コンセプトを明確に,野外では大 人も子どもも楽しめるような形に,などの意見が出され た.その結果,構想案は一部修正のうえ採択された.県 側からは 6 年度以降構想を具体化し,4 月から用地買収 に入る旨の説明があった. *2 17 名と専門委員 4 名 )が設置された.委員会は 9 月 *2 10 日に幹事会,9 月 14 日に第 1 回検討委員会が行なわ れ,議員連盟からは規模を大きく,専門家の意見を聞く べき,地元代表からは地元の雇用,山の上での開発に対 しての危惧の意見が出された. 11 月 12 日には荻巣氏から人間牧野の表現,ゾーニン グには芸術的センスが必要,地形の不利を利用する,メ ンテナンスフリーに,お金をかける部分に強弱を,研究 については明確な位置づけを,高知県における牧野の位 置づけを明確に等のアドバイスをいただいた. 11 月 22 日に第 2 回検討委員会 (専門委員会) が行な われ,岩槻氏から研究機能の重要性や 5 つの機能全て の実現は困難なので,多様性に重点を,波田氏から未来 の子供へという視点,鍵岡氏から植物画の重要性と,計 画段階からのスタッフの参加,ほか石井氏や中島氏から は網羅的に様々な機能を盛り込むより重点を何に置くか, ほか若い女性をターゲットにおしゃれでトレンディーな 要素も,高知ならではの人と自然との関わりを重視した ものを,知識観光の目玉に,サービス機能の充実などの 意見が出された. 12 月 16 日の第 3 回検討委員会は拡張予定地の現地視 察が行なわれた.12 月には議員連盟から牧野植物園整 備関係予算請求書が出され,植物園では事業の年次計画 を立て,準備室の開設と増員を要求した. 平成 6 年 1 月に整備計画立案の委託を受けた㈱パス コと本課および公園下水道課と五台山公園を含めた整備 計画の打合せが行なわれ,その中で研究体制の必要性に ついての議論が行なわれた.この中で筆者は植物分類地 理学的研究,資源植物学的研究,植物文化の研究,景観 生態学的な研究が植物園に必要である旨を強調した. 【牧野植物園整備検討委員会】中平和夫 (議員連盟会長) ,西 森潮三 (議員連盟事務局長) ,江渕征香 (議員連盟) ,山本高 信 (高知市都市整備部長) ,沢良木庄一 (自然観察指導員連絡 会会長) ,山脇哲臣 (元牧野植物園長) ,石井忠彦 (石井空間 研究所) ,藤原定子 (高知県薬剤師会) ,小松康夫 (高知新聞 社) ,西山彰一 (高知青年会議所) ,中島和代 (なかじま企画) , 三谷英子 (RKC 調理師学校) ,成田正 (日本交通公社) ,藤本 幾雄 (高知県観光連盟) ,海老塚和秀 (竹林寺) ,北村建身 (五 台山振興会) , 竹内功 (同) の 17 名, 【専門委員】岩槻邦男 (東 京大学小石川植物園長) ,鍵岡正勤 (高知県立美術館長) ,波 田重煕 (高知大学教授) ,荻巣樹徳 (プランツハンター,東方 植物文化研究所主宰) この牧野植物園整備計画はほぼ現在の用地規模での運 営や施設等の総合的な基本構想で,㈱パスコの当初の企 画書は,石井案の自然史博物館構想を組み込んだもので あったが,委員会での議論の中で,自然史博物館は牧野 記念館へと変更された.その結果コンセプトを「牧野富 太郎博士を顕彰し,長期的展望・地球環境的視座に立っ た時代をリードする牧野植物文化交流園の形成」とし, 以下の 5 つの基本方針が設定された. Ⅰ.牧野富太郎博士の顕彰の場としてふさわしい機能・ 施設構成とする. Ⅱ.地球環境時代の情報発信基地として,未来に向けて 1 月~ 2 月にかけて㈱パスコ・本課・園でパスコ案の 検討,見直しが行なわれ,3 月 3 日の第 4 回検討委員会 では石井氏から世界的という視点が不足する,牧野のス ピリットをどうプレゼンするのか,西森氏から最低でも 20 ha,都市公園との一体整備,山脇氏から芝生広場の 重要性や人の動線,風への配慮,北村氏から記念館の面 積,メンテナンスのコスト,成田氏から遊びの部分もほ しいなどの意見が出された. 3 月 30 日の第 5 回検討委員会では,短期 (10 年) と 長期の構想が必要,予算規模はどのくらいかとの意見 牧野植物園リニューアルへの歩み 15

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Ann. Makino Bot. Gard. 積極的展開が可能なものとする. Ⅲ.五台山や本県の自然や歴史を基調とした環境形成を 図り,郷土理解の場とする. Ⅳ.人と自然の関係を大切にした,安らぎと憩いの場と する. Ⅴ.植物園と周辺地域との連携を強め,全体として環境 の充実・発展を図る. それらを実現するための導入機能の構成として, ①調査・研究機能[基礎植物学 (分類系統,植物地理, 生態) ,応用植物学 (資源植物,有用・薬用等) ,植 物文化,保全植物学,植物情報収集・発信等] , ②収集・保管機能[牧野博士関連蔵書・原画・版木・ その他,植物関連情報 (データベース) ,植物標本 収蔵庫,種子冷凍保存庫等,図書・資料,化石等] , ③展示機能[植物植栽展示 (屋外展示・屋内展示…温・ 冷室) , ボタニカルアート等の展示, 標本 ・ ジオラマ ・ レプリカ展示,牧野博士関連蔵書,ビデオ上映,情 報検索等] . ④普及・学習機能[緑の相談所,各種出版活動 (牧野 博士蔵書 ・ 植物画等) , 観察会 ・ 学習講演会 (生涯教育 ・ 学校教員,子供) ,その他] . ⑤交流連携機能[学術交流,レクレーション,ホビー 交流 (友の会等) , 情報ネットワーク, 資料ネットワー ク等] . ⑥サービス・管理機能[利用者管理 (入退園,展示物 保全等) ,駐車場,施設 ・ 植栽管理,栽培温室,情報 ・ 案内,飲食提供,物品販売,休憩 ・ 避難]を設定した. この計画では入口は現況の入口 1 箇所,主要施設と しては牧野記念館と温冷室,長江はバックヤード (栽培 . 温室と圃場等) とした計画図を描いている (図 2) 自然史博物館建設に関しては,高知大学を中心に平 成 6 年 1 月に発起人が開かれ,その後数回の会合を経て, 同年 12 月に橋本知事あてに高知大学の岡村真教授から, 「化石 (地質) と植物の一体的研究教育等について」要望 が出され,12 月議会においても「四国三橋時代の学術 文化県造りについて」と題する提案がなされた.これは, (1990) にオープンした徳島県立文化の森総合 平成 2 年 公園を念頭に置いたものであった. 2. 「リニューアルの歩み その 2」は次号に続く. 16 やまとぐさ

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